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2024/06/21
MaaS(マース)とは「Mobility as a Service」の略で、従来の交通手段・サービスに、自動運転やAIなどのさまざまなテクノロジーを掛け合わせた、次世代の交通サービスです。
MaaSという言葉が誕生した当初は、複数の交通手段を利用する際に移動ルートを最適化し、料金の支払いを一括で行えるサービスと定義されていましたが、近年は物流MaaSや決済サービスなど概念が拡張しています。
そんなMaaSについて、今回はMaaSで実現できることや導入するメリット、国内外の活用事例について詳しく解説してきます。
目次
|MaaS(マース)とは?
MaaS(マース)とは、「Mobility as a Service」の略で、直訳すると、「サービスとしての移動」という意味になります。モビリティを単なる交通手段ではなく、自動運転やAIなどのさまざまなテクノロジーを掛け合わせた、次世代の交通サービスとして捉えた言葉です。
2015年のITS世界会議で設立されたMaaSAllianceでは、「MaaSは、いろいろな種類の交通サービスを、需要に応じて利用できる一つの移動サービスに統合することである」と定義されています。
|MaaSの国内における定義
もう少し内容を噛み砕いて紹介している例として、国土交通省の掲げる定義を参照してみましょう。(出典:日本版MaaSの推進)
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。 |
MaaSを簡潔に説明すると、複数の交通手段を利用する際の移動ルートを最適化し、検索・予約・運賃の支払いを一括で行えるサービスと言い換えることができるでしょう。
しかし、MaaSの概念はテクノロジーの進歩とともにさらに拡大を続けています。近年では、従来の交通やシェアリングにとどまらず、物流や決済サービスなど、さまざまな領域に広がりを見せています。
・広義のMaaS:IoTやAIを活用した新しいモビリティサービス
カーシェア・デマンドバス・マイクロトランジット・相乗りタクシーなどのサービスや、貨客混載・ラストマイル配送無人化等のサービス
・狭義のMaaS:マルチモーダルサービス
複数の交通モーダルを統合し、一元的に検索・予約・決済が可能なサービス
参考:経済産業省「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理(2018年10月17日公表)概要
|MaaSの歴史
MaaSは2016年のフィンランドの取り組みによって広く知られるようになりました。
フィンランドで誕生した背景
フィンランドがMaaSの導入を開始した理由には、自国の自動車メーカーを持たないフィンランドにおいて、交通機関を積極的に国民に使ってもらうことで国益を高めたいという狙いがありました。
フィンランドの運輸通信省の支援のもと、MaaS Global社は世界初のMaaSプラットフォーム「Whim(ウィム)」を開発。
首都ヘルシンキでは「Whim」アプリをダウンロードして活用することで、電車やタクシー、バス、レンタカーなどの交通機関が月額制で乗り放題になります。
MaaSの導入には混雑の解消や交通弱者対策などの数多くのメリットがあるため、世界各国からも注目を集めるようになりました。
日本での取り組み
日本では2017年頃からMaaSの検討が始まり、2018年にMaaSの社会実装をめざす一般社団法人「JCoMaaS」が発足しました。2019年には経済産業省と国土交通省による、地方自治体や事業者のMaaSへの取り組みを支援するプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」が開始されています。
現在は全国各地でMaaSの実証実験が実施され、実際に事業化されたサービスもあります。
|MaaSの統合レベル
MaaSの普及にはいくつかの段階があり、「統合レベル」として国土交通政策研究所が紹介しています。それぞれのレベルについて詳しく解説します。
出典:MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について
レベル0:統合なし
それぞれのサービスが単体で存在しており、統合されてないレベル
レベル1:情報の統合
複数の交通機関を横断して予約や支払いを一括で行うことはできないものの、目的地までの最適なルートを検索できる程度には情報が統合されているレベル。たとえばバスや電車を乗り継いで移動する場合でも、Webサイトやアプリなどでルートや運賃情報などが提供される状態。2023年の日本はまだこの段階。
レベル2:予約、決済の統合
複数の交通機関の予約や支払いを1つのサービスで一括で行えるレベル。移動手段や運行会社に関係なく、1つのWebサイトやアプリからまとめて決済までできる状態。
レベル3:サービス提供の統合
フィンランドの「Whim」のように、1つのプラットフォームを介してあらゆる公共交通機関に加えて、タクシーやレンタカーも利用できるレベル。料金体系はサブスクリプション型やパッケージとして提供される。
レベル4:政策の統合
国の政策や都市計画においてレベル3を実行できているレベル。2024年時点では、まだ世界的にも実現できている例はほとんどない。
|MaaSの市場規模
2020年の国土交通白書によると、MaaSの市場規模は急速に拡大していくと考えられており、2030年(令和12年)には国内市場が約6兆円、2050年までには世界市場が約900兆円にまで拡大するとの調査結果も示しています。国土交通省としても、MaaS市場が大きく成長していく見立てで、将来のモビリティ事業がMaaSを中心に展開されていくことに期待を示しています。(参考:国土交通白書2020「MaaSの市場予測」)
|MaaSで実現できること
MaaSで実現できることは、主に下記の3つが挙げられます。
◯ モビリティサービスの連携
◯「検索」「予約」「決済」が一括でできる
◯ 移動データを活用してまちづくりが行える
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
|モビリティサービスの連携
MaaSで移動サービスをシームレスにつなぐことで、運行情報やチケット情報の事業者データが連携されます。各事業者が保有するデータを連携して、1つのアプリに集約することで、以下のような移動サービスがワンストップで利用できるようになります。
- 鉄道
- バス
- タクシー
- 旅客船
- 旅客機
- グリーンスローモビリティ
- 超小型モビリティ
また、ICTを活用することで、配車サービスやAIオンデマンドバス、自動運転など新交通サービスが提供できるようになります。このようなモビリティサービスの連携で、より快適な暮らしを実現していきます。
|「検索」「予約」「決済」が一括でできる
MaaSを使用すれば、移動サービスや付加価値サービスの「検索」「予約」「決済」が一括で行えるようになります。
たとえば、移動エリア内にある飲食店を予約したり、観光施設のチケットを購入したりすることができます。MaaSアプリを介して割引クーポンを発行すれば、サービスの利用者増など事業者間で相乗効果が狙えるでしょう。
このように、MaaSで移動サービスに付加価値を見出して、新たなビジネスを創出する動きが注目されています。
|移動データを活用してまちづくりが行える
MaaSで収集したデータを活用して、まちづくりが行えます。
たとえば、時間帯別の交通量や急ブレーキ多発地点に関するデータを蓄積していき、交通事故の発生箇所と重ね合わせれば、安全対策が必要な道路区間・箇所が検討しやすくなります。
また、移動の実態を把握していけば、平日・休日の路線の再編検討もしやすくなるでしょう。このように、移動データを活かしながら、まちづくりに取り組んでいけます。
|MaaSが解決する課題とメリット
MaaSを導入することにより、さまざまな地域の抱える課題を解決できると期待されています。MaaS導入のメリットを詳しく解説します。
|混雑の回避
MaaSが普及することによって、複数の公共交通機関のシームレスな利用や、カーシェアリングの浸透、タクシーやレンタカーを定額で使えるようになるなど、自家用車以外の交通機関を利用するハードルが大幅に下がります。それに伴い自家用車を所有する人が減り、都市の交通渋滞が減少すると考えられています。
|交通弱者対策
公共交通機関の経営が厳しい地方在住者や、自動車免許を返納した高齢者など、自動車中心の社会において移動を制限されている交通弱者の対策にもMaaSは有効です。たとえば、乗合タクシーやバスが手軽に利用できるようになれば、公共交通機関の乏しい地域でも移動手段を確保できます。また、タクシーを活用することで高齢者の移動もDoor to Doorになります。
|排気ガスの減少による環境問題への寄与
MaaSは都市の大気汚染や地球温暖化といった環境問題への効果が期待されています。公共交通機関やカーシェアリングが広く普及することによって、自家用車の利用が減少し、排出ガスの削減につながると考えられています。
自動車の排気ガスには温室効果ガスの一つであるCO2も大量に含まれているため、脱炭素社会を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みにも有効です。
|スマートシティの実現
スマートシティとは、AIやIoTといったデジタル技術を駆使してあらゆるデータを収集し、活用する都市のことです。
MaaSは乗客や公共交通、移動サービスなどの交通データを最適に組み合わせて利便性と快適性を提供するサービスであることから、スマートシティにおける一つのソリューションと言えます。そのためMaaSの導入により、スマートシティの実現に近づきます。
|物流の効率化
MaaSは物流業界の課題解決にも効果的です。MaaSを導入することにより物流事業者と交通事業者がデータを共有すれば、交通渋滞を避けた最適ルートでスムーズな輸配送ができます。輸配送業務が効率化されることにより、トラックドライバー不足や労働環境の改善が期待できるでしょう。
|各種産業の活性化
MaaSによって観光地への移動を最適化できれば、利便性が向上し観光需要が活性化します。今まで交通網が発達していなかった地域にも観光客が増え、地域活性化に貢献できるでしょう。他言語に対応したアプリやWebサービスであれば、外国人観光客の利用も期待できインバウンド需要も向上します。
また、これまで移動を制限されていた過疎地域や高齢者の方々がMaaSにより快適に移動できるようになれば、外出機会が増えます。市街地への滞在時間が長くなることにより消費金額が増加し、地域や各種産業の活性化にもつながるでしょう。
|SDGs達成に貢献する
各国が取り組むSDGs(持続可能な開発目標)の達成には、経済・社会・環境すべてのサスティナビリティを高め、地球上のさまざまな課題を解決する必要があります。そのためにはモビリティにも変革が必要です。より効率的かつ持続的な交通モデルを実現するためのMaaSは、SDGsと密接に関わっています。
|日本におけるMaaSの現状と課題
2024年現在も、日本のMaaSは発展途上の段階です。現状と課題について詳しくみていきましょう。
|データ共有・オープン化
乗客や移動サービスの交通データを共有・オープン化することはMaaSの普及に必要不可欠です。しかし、日本では社外に対してデータを公開することに消極的な傾向があります。
データ利活用が不十分であることは、ビジネス機会の損失やDX推進の障壁であると同時に、MaaS導入の課題にもなっています。
|法律の整備
日本では法律もMaaS普及の大きな壁となっています。たとえばアメリカのUberは一般のドライバーが自家用車で顧客を運ぶサービスですが、日本で同じ行為をすると道路運送法第78条で禁止されている「白タク」行為に該当します。徐々に規制が緩和されつつありますが、法律の整備もMaaSの普及に欠かせない条件です。
|柔軟な価格設定が困難
運賃についても、法律によって規定されている、もしくは決定する際に一定の基準を満たさなければならない場合があります。そのため柔軟に価格を設定することが難しく、MaaSレベルの引き上げにつながるサブスクリプション型などを導入しにくいという問題があります。
|地域ごとの問題
交通機関が衰退している過疎地域へのMaaS導入は急務とされていますが、各地域ごとに抱える問題や状況はさまざまです。そのため大都市向けのシステムをそのまま導入しても効果は見込めないかもしれません。
システムやアプリを導入する場合は、それぞれの地域の課題やニーズを調査して正確に把握し、利便性や快適性などのユーザー体験を考慮したUXデザインを行う必要があります。
|コロナ禍の影響
新型コロナウイルス感染症の影響によりリモートワークが広く導入され、公共交通機関の利用が減少したこともMaaSの普及を阻む要因となりました。
流行の収束によって今後は公共交通機関の利用が回復することが見込まれますが、働き方の多様化や感染対策などのサービス需要は続くことが予想され、対応が求められるでしょう。
一方で、駅や公共交通機関の混雑状況をデータによって把握して回避するなど、withコロナに対応したMaaS事業も誕生し、注目を集めています。
|国内のMaaS事例
国内MaaSは実証実験の段階のものが多いですが、どのような取り組みが行われているかを確認しておきましょう。ここでは、業界別MaaSの事例をご紹介します。
|横浜みなとみらい(観光MaaS)
2023年1月には、みなとみらい21地区で「5G×自動運転」の実証実験を実施しました。自動運転の車内ではスマートグラスを用いた観光体験を提供するなど、ICTを活用した先進的な街づくりに取り組んでいます。
|湘南ヘルスイノベーションパーク(医療MaaS)
湘南ヘルスイノベーションパークは、医療MaaSの実現に向けて実証実験を実施しました。
実証実験では、自宅から病院までの移動を想定した自動運転車の車内にて、心電図・血圧・酸素飽和度・体温等のバイタルデータ計測を実施し、その結果を病院に送信し診察に役立てる体験を提供しました。また、病院内では院内搬送ロボットや自律走行型搬送ロボットを活用して、よりよい医療サービスの提供、医療機関の生産性向上を目指しています。
|広島県大崎上島町(物流MaaS)
広島県大崎上島町では、自動運転対応の超小型モビリティを活用した実証実験が行われました。
島内では運転免許を返納する高齢者(移動難民)が増え、買い物がしづらいという課題を抱えていたのです。このような課題を解決するために、自動運転を活用することに決めました。
垂水港と白水港の周辺にある小売店が商品の注文を受け、配送サービスを予約すると、自動運転車両が注文の品物を受け取ってくれて注文者の自宅まで配達してくれます。
実証実験段階ですが、離島に生きる人々の暮らしを支える新たな物流手段の創出を目指しています。
|海外のMaaS事例
海外では日本以上にMaaSが浸透しています。海外のMaaS活用事例をご紹介します。
|MaaS Global『Whim』(フィンランド)
出典:オンデマンドモビリティサービスの実証実験 – 経済産業省
「Whim」は、さまざまな公共交通機関やタクシー・レンタカー・カーシェアリングの中から最適なルートや方法を選択し、予約や支払いを一括で行うことができるサービス。2017年からフィンランドの首都ヘルシンキで実用化されました。
Whimはサブスクリプション型サービスで、利用者は各自の利用頻度に合わせて毎月49ユーロ(約8,300円*)、毎月499ユーロ(約84,000円*)、都度払いの3つの料金プランを選択することが可能です。 *2024年6月20日時点でのレート
サービスの活用が広まるにつれ、公共交通機関の利用率が大幅に向上。それまで利用率が低かったタクシーの利用率も上昇しました。
|Moovel『Moovel』(ドイツ)
出典:オンデマンドモビリティサービスの実証実験 – 経済産業省
メルセデス・ベンツで有名なDaimler(ダイムラー)社の子会社Moovel社の提供する統合モビリティサービス「Moovel」は、アプリ1つで予約・支払いを行えるMaaSプラットフォームです。
欧州ではハンブルク、カールスルーエ、アシャッフェンブルクなどの都市で利用できるほか、アメリカでも公共交通機関の予約・決済システムとして導入が進んでいます。
|スイス連邦鉄道(SBB)『SBB Mobile』(スイス)
出典:SBB CFF FFS
スイス連邦鉄道(SBB)が提供する「SBB Mobile」は、自転車シェア・カーシェアを含めたルート検索や予約決済のできるMaaSアプリです。また、スキー場リフト券や映画チケットの予約・支払いなどとも連携しています。
公共交通事業の効率化とともにサービス品質の向上を目指すため、長期的な販売チャネルの計画では、券売機や窓口での販売をすべてMaaSアプリに移行する方向性が示されています。
|まとめ
MaaSは、複数の交通手段を利用する際の移動ルートを最適化し、検索・予約・決済を一括で行えるサービスです。混雑の解消や交通弱者対策、環境問題など、様々な課題解決に対応できるとして注目を集めており、世界各地で普及が拡大しています。
また、MaaSの概念自体も人々の生活様式やニーズの変化に合わせ、さまざまな領域に拡張し続けています。従来の定義にとらわれず、次々と誕生する新たなテクノロジーを活用して、人やモノの移動がどのように変化するかを考え続けることが、MaaSの普及につながります。
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