2024/03/13

AIOps(エーアイオプス)とは、ビッグデータや機械学習などの技術を用いてIT運用の自動化・効率化を目指す手法です。
企業が扱うデータの量が絶えず増え続け、そのソースも種類も多様化している今、安定的なシステム監視と高精度のデータ分析を可能にするAIOpsの重要度が高まっています。
本記事では、AIOpsの基礎知識やユースケース、メリット、導入する際のポイントについて解説していきます。
目次
|AIOpsとは?
AIOps(エーアイオプス)とは、“Artificial Intelligence for IT Operations”の略語で、人工知能(AI)と運用(Operations)を組み合わせた造語で、2016年にガートナー社によって提唱されました。
AIOpsでは、企業が保有するビッグデータや機械学習、その他高度な分析技術を用いることで、IT運用の自動化・効率化を図ります。
IT運用を自動化してパフォーマンス効率を向上させることで、ITチームはAIOpsを利用して傾向を見極め、異常を検知して将来の挙動を予測し、プロセスを改善することができます。
|AIOpsプラットフォームとは
AIOpsプラットフォームとは、AIOpsを実現するためのシステムです。
ビッグデータや機械学習を組み合わせて大量かつ多様なデータを取り込み、総合的に分析することで、IT運用を支援します。
ガートナー社は、AIOpsプラットフォームはDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで重要なツールであると指摘しています。
また、同社は『AIOpsプラットフォームのマーケット・ガイド』で、AIOpsプラットフォームには、保存されたデータの分析と、データの取り込み時点でのリアルタイム分析の両方の機能が求められると述べています。
ガートナー社の定義によるAIOpsプラットフォームの主要機能は以下のとおりです。
― ソースやベンダーを問わず複数のソースからデータを取り込む
― 取り込み時点でリアルタイム分析を実行する
― 保存されたデータの履歴分析を実行する
― 機械学習を活用する
― インサイトと分析に基づいてアクションまたは次のステップを開始する
AIOpsを導入することで、複数のデータソースや収集手法、分析技術、提供技術の同時利用が可能となり、効率的なデータ収集・管理と高精度のデータ分析・活用を実現できます。
|AIOpsが注目される理由
2016年にAIOpsが提唱されてから6年が経ちますが、今なぜ注目されているのでしょうか?これには、大きく以下の2つの理由が挙げられます。
― 情報システムで生成されるデータの量や種類が増えた
― 生成されたデータを取得し、分析するためのインフラが整った
|情報システムで生成されるデータの量や種類が増えた
現在は、企業の情報システム活用が進み、導入されるシステムや機器の種類と数が増加しています。全社共通で利用するシステムに加え、部門ごとに異なるツールを利用しているケースも少なくありません。
企業で利用する情報システムの構成が複雑になれば、その分、運用する情報システム部門などの管理者の業務も煩雑になり、負担が増します。その上、各社で情報システム活用が多様化しているため、統一的に利用できるような運用のナレッジも多くはないのが泣き所です。
そこで、各システムや機器類から生成される多様かつ大量のデータを収集し、AIの機械学習を活用して分析を自動化し、運用業務を効率化しようというのがAIOpsです。
|生成されたデータを取得し、分析するためのインフラが整った
サーバーやネットワーク機器などがいくらデータを生成しても、これを収集・蓄積できなければ活用にまでは至りません。
近年では、数値以外の文書や画像・音声・動画といった非構造化データを扱えるようにコンピューターが進歩し、インメモリデータベースの登場によりデータベースの処理速度が高速化しました。
さらに、ビッグデータを分析する機械学習の進化や、膨大なデータ処理が行えるクラウドの普及といったさまざまなインフラが整い、ビッグデータを蓄積・分析できる環境が追いついてきたことが、現在AIOpsが注目されるようになった、もう一つの理由です。
|AIOpsのユースケース
ガートナー社によると、AIOpsは主に以下の4つに活用できるとしています。
― パフォーマンスの監視・分析
― 異常検知
― アラートの原因分析・特定
― ITサービス管理
それぞれを詳しく見ていきましょう。
|パフォーマンスの監視・分析
情報システムの運用では、サーバーのCPUやメモリの使用率、ネットワークのリンク速度など、パフォーマンスの監視・分析を行いますが、AIOpsを活用することで、これを自動化できます。
人手による監視・分析とは異なり、リアルタイムに監視・分析が行え、対応までのスピードアップが可能です。
既存の監視・分析ツールも利用できますが、監視項目や閾値の設計など事前に分析の定義が必要で、そこに手間がかかります。AIOpsの場合、機械学習を利用できるため、複雑な設定なしで監視・分析が行え、システム構成が変わっても設定変更などは不要です。
|異常検知
IT運用システムのデータ内で突出したイベントやアクティビティがあれば、それは「異常イベント」として検出されます。
ただ、システムが複雑化すると、IT担当者が異常イベントを検出することは難しくなり、アラートを設定する人的・時間的コストも膨らみます。
機械学習を活用するAIOpsでは、「トレンド分析アルゴリズム」や「凝集分析アルゴリズム」などのアルゴリズムに基づき、自動で異常イベントを検出し、アラートを生成します。
加えて、システム全体を俯瞰した膨大なデータをもとに異常を検知しているため、迅速かつ効果的に異常を検出することができるのです。
|アラートの原因分析・特定
アラートや障害が発生した際は、復旧のためにその原因を特定する必要がありますが、AIOpsを活用することで、人手を介さずに自動化できます。
過去の運用データも参照しつつ、自動で原因の切り分けを行ってくれるため、対応までのスピードが向上し、その分、運用コストの抑制にもつながります。
|ITサービス管理
ITサービス管理とは、組織内のITサービスの設計から構築・提供・サポートまで、管理に関する全作業を包括する言葉です。
AIOpsを活用すれば、自社の情報システムの設備の過不足や最適ではない構成を改善し、最適化できます。
また、情報システム機器から得られたデータの分析結果からリソースの最適な割り当てを行ったり、ユーザー部門へ提供するITサービスのボトルネックを見つけて解消したりすることで、全体の最適化が可能になります。
|AIOpsを構成するテクノロジー
AIOpsを構成する主なテクノロジーは、「AI(人工知能)」「ML(機械学習)」「ビッグデータ分析」「自動化」です。AIOpsプラットフォームは、これらのテクノロジーを駆使して高度かつ効率的なIT運用を実現しています。
|AI(人工知能)
第三次AIブームにおけるAIは、ディープラーニングや自然言語処理を活用しています。
これにより、原因判断、イベント予測・検知、傾向の特定など、ITを運用するうえで必要とされる課題解決に役立つインサイトを提供します。
▶︎ 関連記事:【AIについて学ぶ】AIとは?研究分野と活用事例を徹底解説!
|ML(機械学習)
ML(機械学習)は、データのパターンやルールを発見するだけでなく、学習成果をもとにした予測・判断までを行います。
アルゴリズムの自動変更や新たなアルゴリズムの構築まで行うMLは、膨大なデータを分析し、関連性をスピーディーに明らかにするうえで不可欠なテクノロジーです。
▶︎ 関連記事:【AIについて学ぶ】AIの学習方法と学習の流れを徹底解説!
|ビッグデータ分析
組織が保有する膨大なデータ群をリアルタイムに分析し、部門を問わず必要な人が必要なときにアクセスできる状態を整えるには、ビッグデータ分析の技術も欠かせません。
具体的なビッグデータ分析ツールとしては、「Elastic Stack」や「Hadoop 2.0」などが挙げられます。
▶︎ 関連記事:【ビッグデータ分析の手法】ビッグデータから知見や価値を引き出すためには?
|自動化
AI、ML、ビッグデータ分析などを使ってデータの信頼性と関連性が確保されれば、特定の問題や状況に自動で応答し、修正できるようになります。
IT運用の速度と精度を大幅に向上させる自動化は、AIOpsを構成する重要なテクノロジーです。
|AIOpsの仕組み
AIOpsの仕組みは、サイロ化(各種システムが孤立し、情報が連携されていない)された膨大なITデータや運用ツールを集約して一元管理し、焦点を絞った対象に分析機能と機械学習機能を適用して有益な情報を取得するというものです。
具体的には、以下のプロセスになります。
|Process1:データ収集・選択
最初のプロセスは、データの収集と選択です。
IT運用システム全体に蓄積されたデータは膨大です。このIT運用データの山からノイズを除去し、事前に定義された測定基準に基づいて「重要な異常のイベント・アラート」(シグナル)を選択します。
|Process2:パターン検出・ソリューション提案
次に、IT運用システムの環境全体のイベントデータを相互に関連づけることで、異常イベントのパターンを検出します。
こうして障害やパフォーマンス問題の原因を特定した上で、詳細な分析により問題を修復するためのソリューションを提案します。
|Process3:自動応答
さらには、機械学習の結果に基づき問題を自動応答で処理します。
具体的には、アラートや解決策の推奨を自動送信したり、ユーザーに先回りして問題を処理したりすることで、リアルタイムに問題を解決します。
|Process4:継続的学習
AIOpsは、継続的学習によってアルゴリズムを改良したり新たなアルゴリズムを作成したりします。
変化に対応しながら自動応答とパターン検出・ソリューション提案を繰り返し、将来に向けて対応を改善し続けます。
|AIOpsのメリット
IT運用を自動化・効率化するAIOpsを導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
以下では、主なメリットを3つ挙げてご紹介します。
|生産性の向上
AIOpsプラットフォームでは、IT運用における監視・トラブル対応・診断などを自動化します。
複雑化したIT運用システムの監視やノイズ除去を手動で行おうとすると、それだけで途方もない時間が奪われてしまいます。
自動化によってIT運用を迅速かつ効率的に行うことで、AIOpsチームメンバーがより重要度の高いタスクや創造的な業務に注力できるようになり、生産性が向上します。
|コストの削減
AIOpsでは、事前に問題を検知して迅速に対応できるため、システム障害やトラブルに起因するコストも削減できます。
また、複雑化したIT運用システムの維持にかかる保守費用や更新コストも削減できます。
さらには、IT運用を自動化することで、手動で運用していた場合と比べて大幅に人的コストを削減できます。
|DX化を推進
近年はデジタル技術が急速に発展し、世界的にDX化が進んでいます。
変化する社会に対応していくためには、AIやビッグデータといったIT技術を上手に活用し、新しいビジネスチャンスを創出していくことが必要です。
AIOpsの導入は、社内のDX化推進に大きく貢献するでしょう。
|AIOpsの活用事例
AIOpsは、さまざまな分野での有効活用が可能です。具体例を挙げながら、AIOpsの活用事例をご紹介します。
|医療
医療の分野でAIOpsを利用すると、研究や診療に医療機関内外のビッグデータを効率的に活用できます。電子保存された個人医療情報の保護や、医療機関を標的とするランサムウェア攻撃を防ぐためにも有効です。
医療従事者がモバイルネットワークを利用したり、個人デバイスを持ち込んだりといったことで起こるトラブルも減らせます。
|小売業
個人情報を保護しながら顧客データを利用できるので、顧客の属性や行動履歴といった情報の把握がスムーズにでき、ニーズを模索しやすくなります。
また、実店舗とオンラインショップなど、小売プラットフォームのデータ同期でも活用可能です。ネットワーク接続デバイスの保守や、新しいスマートテクノロジーの導入時にも役立ちます。
|製造業
工場内の機械をリアルタイムで監視し、製造サイクルのタイムや稼働率などのデータを統合できます。
AIで予測した分析と履歴データを組み合わせて生産面の低下を防ぐことができ、顧客満足度の向上や収入源の確保にも役立つでしょう。
機械のメンテナンスも、データを用いて予測的に行うことで、故障する前に保守することが可能です。
|金融
顧客に関するデータを分析してマーケティングを促進したり、収益成長の予測を高精度にすることが期待できます。
ブロックチェーンのような最新テクノロジーには、大規模なデータセットを統合するフレームワークが必要なため、AIOpsを活用して対応することも可能です。
また、近年はサイバー犯罪やセキュリティ侵害の手口が巧妙化しています。AIOpsの活用は犯罪の被害を防ぐことにも大きく貢献するでしょう。
|AIOpsの導入方法
AIOpsはただ導入するだけでは高い効果は期待できません。
以下の手順に沿って導入することで、効果的なIT運用ができるようになるでしょう。
Step1:システム運用での課題に優先順位を付ける
Step2:導入する分野を絞る
Step3:扱うデータ範囲を広げる
各手順をそれぞれ解説していきます。
|Step1:システム運用での課題に優先順位を付ける
まずはITシステム運用での課題点を洗い出し、AIOpsに適応させるべき課題を調査します。
AIOpsは、導入直後からIT運用における全ての業務を自動化したり、効率化させるわけではありません。
問題発生の原因とトリガーをAIOpsに学習させ、実際にどの程度の精度で感知するかなどもテストしましょう。
|Step2:導入する分野を絞る
AIOpsではさまざまなデータ情報を取り込めます。
しかし、全てのデータを取り込もうとすると、読み込みに時間がかかるだけでなく、誤った機会学習をさせてしまうなど、かえって非効率な結果になることもあり得ます。
そのため、AIOpsをどの分野に絞って導入するのがもっとも効果的かを検討することからはじめてみましょう。
|Step3:扱うデータ範囲を広げる
分野を絞り、導入効果が得られたのであれば、AIOpsを扱うデータ範囲を広げていきましょう。
AIOpsは、異なるデータソースから相関するデータや類似するデータを見つけ出し関連づけるのが特徴です。
そのため、同じデータ範囲内ばかりで活用するのは効果的でないため、異なるデータ範囲での活用をおすすめします。
|まとめ
ビッグデータや機械学習などの最新技術をフル活用するAIOpsは、企業のIT運用の生産性を高め、DX推進を可能にします。
企業に蓄積される膨大なデータを総合的かつ安定的に管理し効果的に運用することで、業務効率が高まり、部門間の連携も強化されます。
ぜひ、AIOpsを新たなビジネス価値の創出に活用してください。